クロスメンタリングPJオーナー対談(出光興産株式会社✖️東京海上日動火災保険株式会社)

ジェンダーギャップ解消に向けた取り組み“企業横断メンタリングプログラム”を導入した理由と意義

2023年6月、出光興産株式会社と東京海上日動火災保険株式会社は、メンターとメンティが他企業の組み合わせで行う「クロスメンタリング」を6ヶ月実施しました。企業の枠を超えて実施されたこのプロジェクトに対する想いや意義を、東京海上ホールディングス株式会社 執行役員人事部長 グループダイバーシティ&インクルージョン統括(CDIO)(※クロスメンタリング実施時) 鍋嶋美佳様と出光興産株式会社 人事部長 池田和馬様にお話しいただきました。

 

【対談】

◾️東京海上ホールディングス株式会社
執行役員人事部長 グループダイバーシティ&インクルージョン統括(CDIO)※クロスメンタリング実施時
鍋嶋美佳様

◾️出光興産株式会社
人事部長
池田和馬様 

 

東京海上ホールディングス株式会社 鍋嶋様

—企業横断型メンタリングプログラムを導入した経緯や、導入前の期待や想い、懸念についてお聞かせください。

 

鍋嶋さん(以下、鍋嶋)

企業内だけでは得られない多様な視点や経験を提供し、女性管理職のキャリア形成を支援することで、ジェンダーギャップの解消に貢献したいと考えたからです。きっかけは出光興産さんと弊社のジェンダーギャップ解消における課題感の共有でした。

 

日本社会の現状については様々なデータがありますが、日本企業の管理職比率は政府目標の30%には程遠く、また最近はさらに役員比率についても注目されるようになっています。そして弊社も、従業員の女性比率は50%を超えているにも関わらず、上位階層になるほど比率が下がり、ここに大きなギャップが生じています。

もちろん様々な課題や要因があり多角的な取組みを進める必要がありますが、出光興産さんと共通していた課題認識が「女性管理職」と「経営陣」双方の意識改革でした。

 

女性管理職には、まだロールモデルが少ない中で「自分らしいリーダーシップ」の発揮への悩みや、更なる上位階層への展望が描けないといった葛藤があるのではないか。そうしたマインドを変革し、自ら上位階層へチャレンジするマインド、道を切り開くマインドを醸成する必要があるということ。

また経営陣、マネージャーたちには自分の育ってきたこれまでと同じやり方ではなく、多様な人材の能力を引き出し、またエンゲージメントを高めることによって、人材そして組織の力を最大化するためのマネジメントスキルの向上が求められている、と考えました。

 

この共通課題に対して、一企業ではなく企業横断で取組むことによって課題解決に向けたスピードアップが図れるのではないか、と考えました。また、異なる業界や企業文化に触れることで、参加者の視野を広げ、新たな価値創出につながることを期待していました。

一方、異なる企業間でのプログラム運営には、各社固有の課題感やコミュニケーションなど、懸念点もありました。しかし、これらを乗り越えることで得られる成果と成長の可能性を信じ、積極的に取り組んで参りました。

 

池田さん(以下、池田)

弊社は、2020年からアーチキャリアさんにお願いして女性担当者と社外女性管理職とのメンタリング(社外メンタープログラム)を実施し、その効果を感じていました。2022年には経済産業省主催の企業横断型メンタリング試行プログラムに、副社長及び女性管理職がメンター及びメンティとして参加。副社長を含む参加者全員から、メンター・メンティ双方にとって非常に効果的な取り組みであるとの感想があり、クロスメンタリングを実施したいと考えていました。

そんな中、2022年秋に東京海上日動火災保険株式会社様と対話する機会があり、そこでクロスメンタリングの取り組みを提案し、快諾を得てスタートしました。

 

私自身は、2023年4月に人事部に異動したので、着任時にはクロスメンタリングの取り組みは既に決まっていました。

最初にこの取り組みを知った時は、社外の社員同士のメンタリングではお互いの状況を全く知らないため相互理解に時間がかかるのではないか、また”よそいきの顔”になりメンティが悩みをさらけ出せず本音での対話ができないのではないかと不安がありました。

しかし、社外だからこそ得られる効果があるはずだと考え、この取り組みに前向きに挑戦することにしたのです。

 

—実際にプログラムを導入しての効果や成果、また印象的だったことはありますか?

 

鍋嶋

プログラムを通じて、メンティは自己開示や内省の重要性を再認識したうえで、他企業のメンターだからこそ踏み込んだ実施ができ、自己信頼の向上や視野拡大、キャリア形成への前向きな変化を実感しました。また、メンターも経験の棚卸しや、新たなマネジメントスタイルへの気づき、アンコンシャスバイアスへの認識など、自身の成長につながる多くの気づきがありました。

そしてこれらの気づき(効果)は、メンタリングの相手が「社外」、つまり企業風土や文化、経験、互いの「当たり前」が異なる相手となることでより最大化されたのではないかと考えています。

特に印象的だったのは、異業種間の交流により、自分たちの業界や企業に固有の課題だけでなく、普遍的な課題や解決策についても深く学ぶことができた点です。

 

池田

導入前の不安をよそに、クロスメンタリングプログラムは大変良い結果となり、メンティのメンタリング満足度は97.5点と非常に高いものでした。

最初はお互いのことを全く知らないため距離感がありましたが、それ故に、メンティは自分の想いを伝え、相手の話をよく聞くことに真摯に取り組むようになったと感じています。また、会社が異なることで心理的な安全性が担保されていたことも、本音をさらけ出せた要因として大きかったでしょう。

 

さらにメンターにとっても、大きな学びの機会となりました。社内同士のメンタリングの場合、メンターはメンティの状況や課題を推察しやすく、話を少し聞いた段階で自分の経験を踏まえたアドバイスをしてしまいがちです。

一方、会社が異なる場合はメンティの状況がわからないため、最後まで話を聞かざるを得ません。その結果、メンティの置かれている状況や課題が理解でき、時には自分の推測とは異なる課題があったことを発見し、聞くことの重要性を再認識したという声が多数ありました。

不安要素と思われていた「お互いを知らないこと」が、結果的にプラスに作用したのです。

 

特に印象的だったのは、メンターとして参加した役員の変化です。これまでは厳しい表情で素早く判断・指摘をすることが多かったのですが、メンタリング終了後は「まず相手の話を聴く」という姿勢に変わり、聴く力が向上したと感じました。これは、社内だけの取り組みでは起こらなかった化学反応でしょう。

 

クロスメンタリングプログラムを進めていく中で、メンタリングが上司のコミュニケーション強化や面談力向上に高い効果があることが明らかになり、社内の取り組みにも大きな影響を与えることとなりました。

具体的には、女性のみを対象とした従来のメンタリングに加え、アーチキャリアさんのサポートのもと、役員—女性管理職、部長—女性社員を対象とする大規模な社内メンタリングをスタートさせました。さらに、全管理職を対象にしたメンタリング研修(アーチキャリア主催)も実施しています。

出光興産株式会社 池田様

—ジェンダーギャップ解消に企業の枠を超えて取り組む意義について、どのように考えていますか?

 

鍋嶋

ジェンダーギャップは、単一企業だけではなく日本社会全体の課題です。企業の枠を超えて取り組むことで、より広い視野から問題を見つめ、多様なアプローチで解決策を模索できるようになると考えています。また、異業種間での連携により、各企業のベストプラクティスを共有し、より効果的なジェンダーギャップ解消の取組みにつながることを期待しています。

 

池田

目的の一つには、ジェンダーギャップ解消のプラットフォームを創ることを掲げています。二社で協力して取り組んでみて感じたことは、企業を超えて共創することで、自社だけでは味わえない刺激や発想、そこから新たな取り組みは生まれることにつながるということです。その結果、当初の想定以上の成果が得られ、社内外へのより良い影響をもたらすことができました。

2024年度は、さらに参加企業を増やし、取り組む予定です。新たな仲間とともに、ジェンダーギャップ解消に向けた企業連合のプラットフォームの基盤を強化していきたいと考えています。企業の枠を超えて協力し合うことで、より大きなインパクトを生み出せると確信しています。

 

—ジェンダーギャップ解消に対する本プログラムの可能性や社会的インパクトについて感じることや期待に思うことをお聞かせください。

 

鍋嶋

本プログラムは、ジェンダーギャップ解消に向けた新たな取り組みのモデルとなる可能性を秘めています。異業種間での知見や経験の共有は、女性管理職のキャリア形成を促進し、より多様な人材が活躍できる環境づくりに貢献します。この取り組みが広がることで、社会全体のジェンダーギャップ解消に向けた意識の高まりや、女性の活躍を支えるプラットフォーム構築につながることを期待しています。

 

池田

メンター・メンティのみならず、企業に対しても効果的であることから、他社でもこのような取り組みが広がるのではないかと感じています。それはとても喜ばしいことであり、 将来的には各企業のクロス メンタリングの取り組みが一体となり”チーム日本“として取り組んでいく、そんな可能性も見えてきたように思います。

 

ジェンダーギャップの解消は、日本全体だけでなく個々の企業にとっても重要な課題です。一社だけで取り組むことには限界がありますが、企業が連携することで、お互いに刺激を受け合いながら、より大きな前進が可能になります。

企業は、戦う時代から共創の時代になってきました。より自由度を高め、業界を拡げて取り組んでいきたいです。

 

—本プログラムの監修や伴走を弊社に依頼頂いたことについて、ご感想やご意見をお聞かせください。

 

鍋嶋

ジェンダーギャップ解消に向けて、それぞれ個社の状況に応じた取組みを各社で進めていますが、この取組みが社会全体でジェンダーギャップの解消に取組む気運につながることを期待しています。

今後もこのプログラムの拡大に力を貸して頂き、全ての人の多様性が尊重され、活かされることにより個人がエンゲージメント高く働きがいを感じながら成長することで組織の成長につながることを共に目指していけたらと思っています。

 

池田

アーチキャリアさんには、私たちを的確かつ効果的にリードしていただきました。

弊社は、2020年の統合後からジェンダーギャップ解消に向けてメンタリングなどの取り組みを行っていますが、まだ課題は多く残されていると感じています。

そのような中、アーチキャリアさんには、クロスメンタリングの監修と伴走にとどまらず、その後の社内メンタリングの支援や、メンタリング研修への登壇にも協力していただきました。論理的かつ分かりやすく社会の動向や取り組みの意義を説明頂き、運営側に対しても具体的な進め方やフィードバックなど、一連の流れを指導していただきました。心から感謝しています。

 

(取材日/2024年3月)