クロスメンタリングPJ 事務局座談会(後編)
クロスメンタリングがもたらす可能性
出光興産株式会社と東京海上日動火災保険株式会社は、2023年6月より6ヶ月間で計3回のクロスメンタリングを実施しました。前回は出光興産株式会社の木下さんと東京海上日動火災保険株式会社の仰木さん、佐々木さん、アーチ・キャリアの井本に実施した経緯とプログラムについてお話しいただきました。今回は、プログラムを通しての成果と今後の展望についてお伺いします。
対談者:東京海上日動火災保険株式会社 仰木様・佐々木様 × 出光興産株式会社 木下様 × アーチ・キャリア(ICB)井本
本質を知ろうとすることが人を活かすことにつながる
井本
出光興産株式会社と東京海上日動火災保険株式会社から、メンター・メンティとして各8名ずつご参加いただきました。ジェンダーギャップの解消を目指し、メンターには経営層、メンティには女性管理職の方々にご協力いただきましたが、クロスメンタリングを終えて変化はありましたか?
仰木さん(以下、仰木)
プログラム終了後、参加者は社内のメンター制度とは違った気づきがあったと口を揃えておっしゃっていました。
多くの女性社員が女性というだけでマイノリティであることの不安、女性だからこその自信のなさ、特定のスキルセットが弱いと感じる問題などを抱えています。メンターは、女性は会社が違っても同じようなことを悩んでいるんだということを理解し、育成について考えを深めるきっかけになったようです。
目標は育成を変えてもらうことですが、すぐに変化するものではないと思っています。女性のメンタリティーを理解した上で育てていくためには、方法を変えないといけない。そこに気づくことができたのは大きな一歩です。1on1やコミュニケーションの方法を変えてみたり、少しずつでも自分のマネジメントに活かすことをイメージできている方もいました。
そこから、育成の仕方も少しずつ変わっていくのではないかと感じています。
木下さん(以下、木下)
実施後のメンターアンケートでは「自分が全てを分かっているわけではないことに気づき、人の話をよく聞くようになった」と回答いただいた方が多かったですね。「話を聞いて3分でジャッジし5分で結論を出す」というように、いかに自分が課題解決思考が強いのかを実感された方もいました。実際は話をしっかりと聞かないとわからないし、自分が想像していたことと全く別のところに問題の本質が潜んでいたということもあります。翻って、職場に戻った時にこれまで相談を受けジャッジしてきたけれど、それは正解だったのか、その本質を見ていたのか、いい意味でクエスチョンが入るようになります。
このように意識が変化した方の中には、人の内面は容易には理解できないという前提で、今まで以上にその人の内面の状況を気にかけて話を聞くようになった方もいました。そうすると、相手も徐々に自分の本音を出してくれるようになり、職場環境も良くなる。
人を活かすとはどのようなことなのか、本当の意味で気づきをくれる機会だったと思いますね。
仰木
私たちの目的の1つは、女性管理職同士のネットワーキングを作ることです。そのため、メンティは定期的に集まって振り返り会を行ったり、リトリートなどのスピンオフ企画を行いました。メンティは内省を深めつつ交流の機会を持つことで、社内社外問わずにメンティ同士のつながりも深めることができました。
プログラムが終わっても、メンティ同士のつながりの中で内省を深めていく機会を持つ活動にもつながっていくのではないかと期待しています。
井本
プログラムでは、メンタリングだけではなく他社のメンティからも刺激を受けているような印象でしたね。
それはメンターも同じだと思います。メンター同士で座談会をした時に、自社の役員層だけではなく他社の役員層の意見を聞いて、「そんな捉え方をしているんだ、そんな関わり方をしているんだ」と刺激を受けておられる印象がありました。
仰木
それは、大いにあると思いますね。
木下
メンターの方々にとって、自分たちが主体となりキックオフや最終報告会、フォローアップに参加する機会はあまりないでしょうし、同じような目線の役員達と話をすること自体が新鮮だったのではないかと思います。メンターの皆様が本当に嬉しそうで、とてもいい笑顔で写真に写っていて、「こんな素敵な笑顔をされるんだ!」と嬉しい発見でした。
参加企業を増やし、ジェンダーギャップ解消につなげたい
木下
私達は、クロスメンタリングの取り組みを通じて、最終的には多様な人材が企業を超えてつながるプラットフォームを作り、人材ギャップを解消することを目標に見据えています。そのために、まず参加企業を増やして、より多様な業種の方々と一緒に取り組みを進めていきたいと考えています。
今回は2社32名が参加しました。次回は取り組みを拡充し、参加人数を2倍程度増やす形で検討しています。その際に、1社からの参加人数を減らし企業数を増やすのはどうかと検討もしました。しかし、数名参加しただけでは社内に新しい風を吹かすことはできない、やはり、ある程度の人数が参加することで初めて社内への影響力を持つようになるのかなと思ったのです。
仰木
そのため、次回は4社でのクロスメンタリングを実施することにしたんですよね。
4社でのコミュニケーションの取り方や意思決定、参加者へのサポートは今回とは変わってくるでしょう。このような経験を積み重ねながら大きくしていきたいなと思いますね。
私たちが目指していることは、目標への思いをぶれずに持ち続け、この思いに賛同してくれる人をいかに増やしていくか。ステップを1つずつ進んでいくしかありませんが、どこかのタイミングで、いつか爆発的に広がるんではないかと思っています。
佐々木さん
ジェンダーギャップは、個々の会社だけではなく日本全体の問題。同じような悩みを抱えている女性はたくさんいると思います。参加人数を増やしていくことで、少しでも日本全体のジェンダーギャップ解消につなげたいですね。
ある程度名の知れた企業がこの取り組みに参加することで、より大きなインパクトを生み出し、社会全体へのジェンダーギャップ解消のメッセージを発信できればと思っています。
木下
同時に女性管理職同士のネットワーキングもしっかりと構築していきたいですね。
女性管理職が自分らしくいられる場は、なかなかありません。男性が多い環境で働いていると、無意識に男らしくいるように求められる時もあるし、そこに自分も合わせていく時もあります。だけどそうじゃなくてもいい、しなやかにいてもいいんです。
ネットワーキングの中での彼女たちを見ていると、無邪気に笑う普通の方たちなんです。こんな自分を出してもいいんだな、同じような立場の方たちもこんな風に考えてるんだねと感じられる場を作る。ネットワーキングが、彼女たちが自分らしくいられる1つのホームになれるといいなと思います。そして、そういう彼女たちを見ている後輩女性も励まされるととても嬉しいですね。
仰木
フロントランナーとして走ってる方々は、後輩育成のマインドが高いと日頃から感じています。企業を超えて後輩育成できれば、日本経済や日本企業の活性化へとつながっていくのではと思いますね。
井本
参加していただいたメンティは「この日本社会の中で頑張ってる同志がいる。そう思えるだけで自分の持ち場で頑張れる」とおっしゃる方が多くいました。それこそネットワーキングの強みであり、より多くの企業へと広がっていくと、それだけで意味があるんだろうと感じています。
このプログラムは、これまで当社が取り組んできたことがベースにあります。ですが当社が決まったプログラムを提供したわけではありません。参加者の性格、プログラムの目的を常に共有し、相談しながら3社で一から作り上げました。
事務局の皆さんが目指すべき目的に常に立ち返りながら、何か自社にいい影響をもたらしたい、社会に対して発信していきたいという情熱や思いを持っていた。そのことが本当にこのプログラムを良いものにしてくれました。
それぞれの専門分野を持ち寄って社会に向けたプログラムを共創し、得たものを各自の会社に持ち帰る。そして翌年に再び集まり、さらに良いものを作り上げることができたなら——。
それはとても素晴らしいことですよね。来年度も共に走れること、ご一緒できること、本当に楽しみに思います。
(取材日/2024年3月5日)
執筆:田中亜由美